自転車特有の過失割合①-片手運転(携帯電話・傘さし等)
自転車との交通事故の場合、自転車特有の過失割合の要素が存在します。
ここでは、よく問題となりがちな以下の4つの事例のうち、1.片手運転自転車と過失割合について解説します。
- 片手運転(携帯電話利用等)自転車と過失割合
- 無灯火自転車との過失割合
- イヤホン使用自転車と過失相殺
- ハンドルに荷物をかけた自転車と過失割合
1 片手運転自転車の違法性
(1)はじめに
雨の日に片手で傘をさしながら走行している自転車や、携帯電話を使用しながら走行している自転車を見かけたことはありませんか。
自転車運転においては、ハンドル操作が極めて重要であるところ、片手運転が行われた場合には、かかるハンドル操作が不安定な状態となり、非常に危険です。
さらに、携帯電話を利用している場合などには、前方不注意の危険も伴います。
このように、片手運転は非常に危険な走行態様ですが、法律上どのような扱いをうけているのでしょうか。
(2)片手運転自転車の法的扱い
自転車道路交通法上、軽車両に該当しますので、車両としての扱いを受けることになります。
そのため、自転車は、例外規定が定められている場合を除き、原則として道路交通法の規制に服することになります。
道路交通法70条は、「当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」として、いわゆる安全運転義務を定めていますので、片手運転は、一般に同義務に違反するものと考えられています。
さらに、道路交通法71条は、運転者に対して各自治体の公安委員会が定めた規制に服することを義務付けているところ、多くの自治体においては、片手運転に関する遵守事項を定めています。
例えば、千葉県道路交通法施行細則は、「傘を差し、手に物を持ち、物をかつぐなどして、視野を妨げたり安定を失うおそれのある運転」を禁止し、片手運転を明確に禁止しています。
このように、片手運転は、道路交通法70条及び71条に違反する運転態様と評価することが可能です。
2 過失割合への影響
それでは、片手運転は、実際に過失割合にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
自転車同士の交通事故の場合の過失割合は未だ類型化されていませんが、歩行者と自転車との事故において、片手運転がなされた場合には、「著しい過失」として10%程度過失を重くする取り扱いとされています。
もっとも、一口に「片手運転」といっても様々な態様があります。
例えば、視界を遮るものを避けるために一瞬手を放す場合など、必ずしも当該事故に影響があったとは言えない場合もありえます。
他方で、携帯電話の画面を注視しながら片手運転していた場合には、両手でのハンドル操作が不可能なだけではなく、周囲の交通に対する注意を欠く状態での運転となるため、単なる片手運転と比較すれば、より危険性の高い行為と評価できます。
そのため、一般論としては、片手運転の場合には「著しい過失」と判断され10%程度過失が加重されることが多いと思われますが、結局のところ、当該事故に対して片手運転がどの程度影響を与えたのかによって、過失割合は変動するといえるでしょう。
3 裁判例の紹介
片手運転がなされなかった場合の過失割合について言及していないため、裁判所が厳密に片手運転についてどの程度過失を加重しているのか不明ですが、多くの裁判例において、片手運転自転車の過失について言及されています。
例えば、交差点の横断歩道を横断中の歩行者と下り坂を片手運転(ペットボトルを把持)で走行していた自転車とが衝突した交通事故(東京地判平成15年9月30日自保ジャーナル1534号)において、裁判所は、「片手運転は不安定であって、ハンドル操作も効きにくく、殊に下り坂を走行するに際しては一輪のみの制動ではその制動効果が少なく、走行時に起こりうる種々の事態に対応できない危険な走行方法であった」として、片手運転自転車の過失を100と判示しています。
4 さいごに
以上のように、片手運転は道路交通法に違反する走行方法であり、かつ両手運転と比較して極めて危険な走行方法であることは裁判例においても肯定されています。
もっとも、実際に当該事故において過失割合にいかなる影響を及ぼすかについては、具体的な事故状況による部分が大きく、専門家である弁護士へ相談されることが望ましいです。
とりわけ、自転車事故の場合には、片手運転をしていたことの立証に苦労することも多いです。
当職は、片手運転自転車との過失割合について複数の相談実績がありますので、片手運転自転車との過失割合にお悩みの方は、ご気軽にご相談くださいませ。